煙草でタバコって読むの、いやに洒落てるな。タ-バコと分けたくなるけど実際どうなんだろう。表記の自由度が高いものの一つだけど、「煙草」がやはり一番オシャレだな。
とりとめもなくそんなことを考えながら煙草に手を伸ばす。大嫌いだった煙草に。失恋した訳でもないくせに、あまりにもコレサワ然としていて腹立たしい。実生活がこんなに陳腐になるなんて考えもしなかったから、どうにも憂鬱になる。
煙草にこれといった思い入れはない。むしろ、喘息持ちだからかなり忌避してきた。大人になっても煙草はやらないと思っていた。酒も飲むものかと思っていた。
そんな私が、このところ、毎晩なにかを忘れようと酒をあおっている。満たされずに煙草を燻らせる。なりたくなかった大人になった。
煙草を吸うようになってわかったが、これは優れた眠剤だ。ゆっくり深呼吸を重ねると、脳がシャッターを半分閉める。夜空と同じ色の砂がさらさらと溜まって頭が重くなり、やがて布団の上にドサリと落ちる。
こうして誤魔化して日々を繰り越して、その先に何があるだろう。不安で、悲しくて、泣けてくる。だけど涙は出ない。頭の砂が吸収するらしい。そのまま意識をも吸い取られて、暗転。
煙草が燃えている間だけは郷愁に浸ることができる。
マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや/寺山修司
どうか今だけは空を飛ばせて下さい。
青空に揺らいで消える煙を見送った。